競輪場のジャン(鐘)と欲望に染まった阿鼻叫喚が海風に乗って川崎球場の上空を漂っていた。
晴れた日曜日、大きな背中がマウンドにいた。
バックスクリーンの選手名は、当時は手書きだった。
登板の日、日曜の昼、バックススクリーンの中で、職人が「村田」と書き記す場面を何度かカメラに収めた。
背番号29、頑固一徹、渾身の剛速球とフォークボール。
大洋ホエールズ、そしてロッテと、多くのドラマの舞台となった「川崎劇場」
マウンドの上で仁王の如き佇まいは文字通り、川崎劇場の大看板だった。こんな形で、千両役者の非業の死は、辛すぎる。
マサカリ担いだ、不世出の”昭和の明治男”に唯、合掌。